澄んだ空の下で

「…おい、服濡らすなよ」


暫くたって聞こえた恭の声に、背中からゆっくりとくっつけていた額を離す。


「うん?」

「泣いてもいいけど服濡らすな」

「泣いてないもん…」

「お前が泣きそうな時、なんか分かるわ」

「だから泣いてないって!」


バシッと背中を叩くと、


「いってーなぁ…」


と舌打ちとともに聞こえる恭の声。


「恭、止まって?次、漕ぐよ」

「別にいいし」

「ダメ、あたし漕ぐから。順番にしよう」

「大丈夫かよ」

「うん」


キッと短い音とともに自転車が止まる。

場所を変わって、ペダルを踏みしめた時グランと自転車が傾いた。


「きゃっ!!」

「うわっ!!」


重なり合う様にあたしと恭の声が重なる。


「あっぶねーな!お前こそチャリ乗った事、あんのかよ」

「あるに決まってるでしょ!」

「やっぱ俺漕ぐわ」

「いいから」


ペダルを踏みしめ、ユラユラなりながらもなんとか前に進む。


だって、こうでもしないと恭の後ろでまた泣いちゃうから。

今は何も考えたくない。
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