澄んだ空の下で
大切なもの
「…おい、若菜っ!」
不意に聞こえた声に足を止める。
振り返る先には少し離れた所に居た恭がジッと見つめてた。
お姉ちゃんの怒った姿、母のあんな姿を見られてたなんて最悪過ぎて言葉にもならない。
「ごめん!お姉ちゃんが心配だから駅まで行ってくる」
そう言って、恭に向かって叫んだ。
「乗れよ、チャリで行けばまだ間に合うだろ」
コクンと頷いて自転車の後ろに跨る。
ゆっくりと進んで行くと同時にコツンと恭の背中に額を付けた。
「…ごめん。みっともない所見せちゃった」
「いや」
さっきまでの時間が消える様に頭の中はお姉ちゃんの事ばかりだった。
駅が近づく度にソワソワし辺りを見渡す。
そして目に入ったのが今まさに駅に入ろうとするお姉ちゃんだった。
「…お姉ちゃんっ!」
背中に向かって叫ぶと、ゆっくりとお姉ちゃんが振り返る。
「ごめん、恭。お姉ちゃんと話したい事あるの。だから一緒に行って来る」
「え、行くって何処まで」
「2時間くらい…かな」
「は?」
「お姉ちゃん一人で帰らせられないよ。しかもなんか調子悪そう」
「だったら送るけど」
「ううん。大丈夫。だから、ごめん」
そう言って、恭に背を向けた瞬間、
「若菜?明日の事、やっぱいいから」
聞こえてくる声に振り返って、「ごめん」と小さく呟いてた。