澄んだ空の下で

「前にも言ったと思うけど、恭からは来ないよ。まだ想ってるんだったら若菜ちゃんから行かなきゃ」

「振られるのに行っても…」

「言わなかったっけ?恭は誰とも付き合わない。イコール大切な人とは寝ないって」

「……」

「大切な人は居なくなるからって。恭の傍から消えるからって」

「……」

「身体求めちゃうと、更に求めちゃうからって。だから付き合わないって」

「……」

「だったら、恭の傍にずっと居たら?」

「……」

「若菜ちゃんさ、なんでビル見上げてたの?」

「…え、」

「恭もね、ずっと屋上行ってたよ?若菜ちゃん側のビルね」

「…え?あたし側?」

「恭も気になってるんだねー、でもだからこそ若菜ちゃんを突き放してる。恭の過去をかえてあげなよ」

「でも…」


そんな事言われても…

行ってどうするの?

また振られて来いって?

そんな事したら、ただのうっとおしい奴じゃん。


「あ、そだ。恭ね、引っ越したんだ」

「え?」


…引越した?

いつ何処に?


「あたしは場所知らないんだけどね、都心じゃないって聞いた」

「……」

「恭に聞くの嫌だったらセナに聞いたら?ほら、丁度そこに居んじゃん」


ニコッと微笑んだ千沙さんから視線を窓の外に向ける。

向けた先にあるのは真っ黒のセダンの車。

こんな寒いのに窓全開にしたそこからはセナさんの横顔が見える。


「え、なんで?」

「ごめんね、若菜ちゃん。あたしさっきまでセナと居たんだ」

「え?」

「病院、連れて行ってもらった帰り。そこで若菜ちゃん見掛けたから…」

「…っ、」

「セナも若菜ちゃんに会いたがってる。心配、してたよ。セナに恭の居場所聞いてきたら?」

「でも…」

「ほら、行って行って」


シッシっと手で追い払う千沙さんは口角を上げた。

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