必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
安倍晴明の年収は、現代で言う3、4億
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全くもって散々な目に遭った。
やっと部活動が終了し、部室を脱出できた頃にはもう日が暮れている。
式神は陰陽師が使役するどうのこうの、だとか言われて作ってみたが、結局、紙人形は微動だにしなかった。
「うーん、呪力が不足しとったんかな。それとも、本人の信憑度合か」
などと、吉郎はあたかも、自分は紙人形を操作できるような口ぶりであった。
蓼食う虫も好き好きとはいえ、蓼を好まぬ他者に無理矢理それを食わせたって、美味しく頂けるはずがない。
もう校舎には人っ子一人として残ってはいない。
強いて言えば教師くらいしか。
晴也は本館から出て、農業科棟を突き抜けた所にある下駄箱を目指した。
農業科棟は職員室もないため、寒々しいまでに人気がない。
日が暮れて緋色の陽光も差し込んでこないので、棟の学舎は薄暗かった。
(無駄な時間を使ったかもなあ)
がっかりとしてまた首を垂れる。
あんなはちゃめちゃな部活動では、ポイントなど到底取れそうにない。
部活を変えようにも、それに伴って必ず、退部というレッテルが張られる。
続けても辞めてもマイナスにしかならない。
しかも、部員は吉郎一人しかいなかったというのだから不思議なものだ。
通常、部活動を立ち上げようとなると、部員が複数必要になる。
そこを、彼は一人でやって来たのだというから、疑問符がいつまでたっても消えない。
―――おおおん…………。
ふと、晴也はその足を止めた。
「あれ?」
強風が校舎のパイプの中を通ると、よくこんな音がする。
しかし、今日は雲一つとない快晴である。
外からも風は全く吹き込んでこない。
来ないが、
―――おおおん…………。
確かに、遠巻きに咆哮にも似た音が聞こえてくる。
気のせいだな、と考えて通り過ぎるのが妥当だが、幻聴がこんなにも鮮明に耳に届くはずがない。
(農場の動物が鳴いてんのかな)
農業科で飼育されている牛や鶏、犬や馬、山羊などの吠え声だろう。
しかしよくよく思案してみれば、どの動物もそんな声で鳴きはしない。
若干犬のような響きだが、牧羊犬はこの農業科棟から離れた小屋に居る。
いくら大きな声で遠吠えしようとも、ここにいる晴也には、うっすらとしか聞き取れぬ。
―――うおおおおん…………。
晴也は固唾を飲み込む。
なんだかそれは、発音のしかたといい、妙にはっきりとした「う」や「お」の言葉といい、
犬というより人間の怒号に酷似している。