必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
「ん?」
「なんで、先輩が謝るんだって訊いてんですよ。
だって、手を下したのは業者の人たちと、教師じゃないですか。
どうしてあんたが、土下座までして謝ってんのか、分かりませんよ」
胸中に溜め込んでいたものを一気に吐露し、なんとなくだが晴也はすっきりした。
そんな晴也を見るや、吉郎が物珍しそうに瞠若する。
「なんやお前、思ったよりドラマチックな奴やな」
「ぶざけないでくださいよ」
「いや、晴也みたいな奴って、もっとこう、インテリ系で冷徹な性格しとって、
いざってときに熱くなる奴かと思った。
お前ってけっこう情に厚い子?」
ありがちな青春学園ドラマと一緒にしないでほしい。
全くこの人は、人が真剣になってる時に限って、なんでそうやって呆けるんだか。
晴也は心底から失望したように目を伏せた。
あわてて吉郎が、
「ごめんって、なあハルヤデス君」
「晴也、ですよ。先輩」
「だって、あんまりにも暗い顔しとるで、つい、出来心で……」
「出来心って僕に言う言葉じゃないでしょーが!
それって浮気を知った妻に言う台詞ですよ!」
息を切らして肺を休ませる晴也に、吉郎は申し訳なさそうに破顔した。
「あのな、俺があの女に謝ったのは、俺が陰陽師やからや」
「意味が分かりませんよ」
「陰陽師ってのはな、怨霊を祓うっていう伝承があるやろ。
悪い妖怪とか霊を退治して、すっかり英雄扱い、なんて感じでさ」
「でも、悪霊がいるから、陰陽師がそれを祓うようになったんでしょ」
「せやけど、周りは陰陽師の見方を間違えとるで」
生まれつきなのか鋭く剣呑な目つきに相反して、
吉郎の声は赤子をあやすような優しいものであった。
「怨霊もな、元は人の魂とか、心とかや。
生ける人が誰かにに悪さされて、そんで、そいつに怨念を持って死んでく。
それで長い時間をかけて悲しみに打ちひしがれながら、
憎みながら怨霊になるんや」
「憎み、ですか」
「怨霊ってのは、あのヌートリアと同じなんやで。
人が勝手に作って、最後にゃ、また人の都合で消されてまう。
被害をこうむるのは怨霊に襲われる人間やなくて、
人のせいで生まれて、人のせいで消えてく怨霊のほうや
やから」
「……だから?」
「陰陽師や修験者はヒーローやない。
加害者が自分の身を守るために用意した、駆除業者や」
吉郎は決して、自分がその駆除業者である陰陽師の家系に生まれたことに、嫌悪感を抱いているような口ぶりではなかった。
ただすまなさそうに、小さく自虐的に微笑むだけである。
「でも、祓う奴がおらんと、怨霊になった魂は消え去るまでの四十九日間、
ずっと苦しんでかなあかんねん。
まあ、調伏しても、苦しいのは同じやけどな。
だからせめて祓った張本人が、しっかりとそいつらを弔ったるべきなんや。
人への憎しみは消えんくても、孤独の悲しみは和らいでくれるようにな」