必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
長々と話を傍聴していた晴也は、瀬から登ってきた吉郎をひたと見据える。
ん、どうした、と快く訊ねる吉郎の額にこびりついた泥を、晴也は親指の腹で拭ったのだった。
「……僕は、世間体をよくしたいとか考えて、いい子ぶる奴ですから」
唸りながら、秀才さながらに眼鏡の縁を押してレンズを光らせる。
「お線香って、どこに行けば買えますか?
でもって、いくらで売ってるんですか?」
晴也はこれでも、冷徹な秀才ぶったつもりでいた。
しかしどうやら、誰が聞いたって見抜けるような嘘をついてしまったらしい。
吉郎はぽっと頬を赤らめて、
「やべえ、こいつ超ええ奴やん。
ったく、キュンと来るやろ。
食べてまうで?」
「気持ち悪いですよ。
つーか男になんてこと言うんですか」
「いいんやて。
俺、ホモとかまじで好きやねん」
「なんつー性癖持ってんだよあんた!」
ぎゃあぎゃあと喚きたてる晴也は、またしても息を切らした。
何しろ勉強はできても運動は苦手というありきたりな、脳と体力のバランスの持ち主である。
こんな部長と漫才などしていたら、命ならぬ肺がいくつあっても足りない。
晴也は疲労して通学鞄を携え、鉛になった足で帰宅しようとした。
それをまた、
「ちょっと待ちいや」
吉郎がブレザーの襟を引っ張り、ぐいと引き寄せた。
「晴也はチャリで通学か?」
「いや、徒歩です」
「ほな、二人乗りして送ってったるわ。
いろいろあって、疲れたやろ」
「あのう、あんたとコントしたのが一番応えてるんですよ」
吉郎の耳の関は、自分に不都合な言葉を通さない。
その後、晴也は吉郎が帰宅の準備を済ませるまで待たされ、初の自転車二人乗りを体験するのだった。