必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】

 ***

「あ、その角を右です」

「あいよ」

 初の二人乗りに、晴也は飛行機にでも乗るような気分だった。

後ろの席というのもあって、自転車は一人で乗った時よりも揺れる。

なので晴也は、しっかりと吉郎の細い腰にすがりついていた。

「んもー、晴也君ってばべたべたして。

そりゃ、俺もうれしいで?

こんなにしがみついてもらえて、さ。

けどなあ、もうちょっと人目を気にしようや」

「あんたは一体ボクをどういうふうに見てんだ!

振り落とされるのが嫌だから、必死に抱き着いてんじゃないですか」

「きゃあん、抱き着くだなんてっ。

他の女の前ではそんなこと言ったらあかんで?」

「だからそういう思考をやめろっつってんでしょうが!

そんな趣味の持ち主とは思いませんでしたよ。

不良で陰陽師で、挙句の果てにホモが好きだなんて!」

 顔のつくりは並より群を抜いて優れている。

しかし容姿や女子の人気以前の問題だった。

すると吉郎はあっけらかんとして、「俺不良やないで」と、吉郎不良説を否定した。

「うそおっ⁉」

「ほんまや。頬の傷のこというとるんやろ。

これはな、たまたまガラスの破片で切っただけやねん」

「どうして、ガラスの破片なんかで?」

「いやな?

最近買った同人誌にな、ビール瓶割りで結ばれたホモカップルの話を見てな。

俺もビール瓶割りやってみれば、出会いも来るのかな、と」

 で、試しにビール瓶を頭で叩き割ってみようと考えた、というわけだ。案の定、割れて砕けた瓶の破片で頬を切ったのだ。

実にくだらない、と晴也は心底から呆れる。

「いや、それって架空の話でしょ。

人の想像によって作られた物語でしょ。

なに真に受けてアメリカの人みたいなことやってんすか」

「あ、またそんなこと言う。

架空みたいなことだってな、現実にはあるねん。

現に、陰陽師がおるやろ。ここに」

「陰陽師は歴史上実在する公務員だから、まだ信憑性がありますよ」

「言っとくけど、俺んとこのご先祖様は官人陰陽師やないで。

暦も作らんし、方術とか式占ばっかりやっとった、庶民の味方の民間陰陽師や」

 哲学的な陰陽道に磨きをかけず、面妖な方術の腕ばかりを上げていた民間陰陽師。

余談だが、これら民間陰陽師や僧の姿をした法師陰陽師などは、

平安朝当時は掃いて捨てるほどいたらしい。


 





< 20 / 57 >

この作品をシェア

pagetop