必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
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「あ、その角を右です」
「あいよ」
初の二人乗りに、晴也は飛行機にでも乗るような気分だった。
後ろの席というのもあって、自転車は一人で乗った時よりも揺れる。
なので晴也は、しっかりと吉郎の細い腰にすがりついていた。
「んもー、晴也君ってばべたべたして。
そりゃ、俺もうれしいで?
こんなにしがみついてもらえて、さ。
けどなあ、もうちょっと人目を気にしようや」
「あんたは一体ボクをどういうふうに見てんだ!
振り落とされるのが嫌だから、必死に抱き着いてんじゃないですか」
「きゃあん、抱き着くだなんてっ。
他の女の前ではそんなこと言ったらあかんで?」
「だからそういう思考をやめろっつってんでしょうが!
そんな趣味の持ち主とは思いませんでしたよ。
不良で陰陽師で、挙句の果てにホモが好きだなんて!」
顔のつくりは並より群を抜いて優れている。
しかし容姿や女子の人気以前の問題だった。
すると吉郎はあっけらかんとして、「俺不良やないで」と、吉郎不良説を否定した。
「うそおっ⁉」
「ほんまや。頬の傷のこというとるんやろ。
これはな、たまたまガラスの破片で切っただけやねん」
「どうして、ガラスの破片なんかで?」
「いやな?
最近買った同人誌にな、ビール瓶割りで結ばれたホモカップルの話を見てな。
俺もビール瓶割りやってみれば、出会いも来るのかな、と」
で、試しにビール瓶を頭で叩き割ってみようと考えた、というわけだ。案の定、割れて砕けた瓶の破片で頬を切ったのだ。
実にくだらない、と晴也は心底から呆れる。
「いや、それって架空の話でしょ。
人の想像によって作られた物語でしょ。
なに真に受けてアメリカの人みたいなことやってんすか」
「あ、またそんなこと言う。
架空みたいなことだってな、現実にはあるねん。
現に、陰陽師がおるやろ。ここに」
「陰陽師は歴史上実在する公務員だから、まだ信憑性がありますよ」
「言っとくけど、俺んとこのご先祖様は官人陰陽師やないで。
暦も作らんし、方術とか式占ばっかりやっとった、庶民の味方の民間陰陽師や」
哲学的な陰陽道に磨きをかけず、面妖な方術の腕ばかりを上げていた民間陰陽師。
余談だが、これら民間陰陽師や僧の姿をした法師陰陽師などは、
平安朝当時は掃いて捨てるほどいたらしい。