必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
渡り廊下に続く出入り口には、同じクラスの女子生徒が屯していた。
さらに言ってしまえば、彼女らは昨日、この渡り廊下にたたずんでいた吉郎の姿に岡惚れしていた、いわゆる吉郎ファンの面々である。
なぜ、彼女らがこんなところで群れをなしているのか。女ではない晴也にだって、その訳は理解できた。
「ちょっと、なにあれ」
「B組の雅花子(はなこ)でしょ。モテ子の」
「下駄箱に手紙いれて、先輩を呼び出したらしいよ」
雅、花子?
出入り口の窓から見える男女。男子は吉郎、女子は件の美少女、雅だ。
そこで、晴也は察する。雅とは名ではなく苗字であったのだと。吉郎と全く同じだ。
それにしても、花子とはまた古っぽいというか、不意に女子トイレを思い起こさせる。
女子たちの顔は非常に厳めしく、これぞまさに少女漫画にありがちな敵陣の面構えだ。
力量にしても体格にしても、男は基本的には、女に勝るようにできている。
しかし男の晴也は冷や汗をかいて思うのだった。
女って怖い。
忍び足で、彼らに気を取られている女子の陣の後方から、渡り廊下を見てみる。
「で、俺になんか用か?」
うなじに手を置いて吉郎が、雅花子に言った。
「実は、先輩の事でお話があるんです」
花子が答えると、より一層、さわさわと女子の陣がざわめく。沸き立つその声は殺気の現れにさえ聞こえる。
「あの、私と―――」
付き合ってくれませんか。
誰もが、そんな告白の決まり文句を想像しただろう。
しかし、そんなものとは天と地の差でかけ離れた台詞が、花子の口から放たれるのであった。
そしてそれは、塵ほどの晴也の悪い予感と合致した。
「私と、ホモを語らってくれませんか!?」
ごろごろっ、ぴしゃん。
白目を剥き、口をあんぐりと開けた女子の陣。
そんな彼女らに、空に亀裂を入れる閃光にも似た、巨大な衝撃が走る。
(やっぱりか!!)
唖然としつつ、晴也は確信する。
眼鏡とバレー部だとか、カップル誕生だとか言っていたのは、紛れもない、雅花子だったのだ。
―――となると、必然的に花子は、眼鏡っ子である晴也とバレー部である細川の二人を、
カップルと認識していた、という事になる。
もうこの先はどんな会話になるか。晴也なら知りえる事態になってくるだろう。
「おっ、おおっ、お前もホモが好きなんか!?」
吉郎の眼が爛々と輝いた。
「はい先輩!あなたの話はかねがね聞いています。
二年生で唯一、ホモがお好きな方であると!」
「おうよっ。春コミ冬コミ、毎年コミケの常連として顔出しとるでっ」
「じゃあじゃあ、春のコミケで売ってた、新作の『男子校メモリアル』のアンソロジーも持ってますか!?」
「もちろんよ!」
「ですよね!ホモが好きならこれくらい持ってないと。
実は今日も持って来たんですよ」
そう言って通学鞄から取り出したのは、文字通り男同士が、本来男女が交わすべき口付けをしている絵が表紙の漫画であった。
あれがホモ好きの方がた曰くの、アンソロジー、であるらしい。