必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】


「じゃあ、私にもお線香、一本くれませんか?これでもいちおう、おじいちゃんが僧侶なので」

「来てくれるんか?」

「はい。このままなにもしなかったら、開祖さまやおじいちゃんご泣きますからね」

意味不明なことを言って、すくっ、と花子は立ち上がった。

「そうと決まったら早く行きましょう。

どの漫画でも、謎を解き明かされた人物はその後すぐに行動を起こすべきなんです」

 漫画と一緒されてもなあ。

晴也は後頭部をかいたが、彼女の発言は、物語にありがちな麗句には聞こえなかった。

 * * *

「はらぎゃーてー、はらそーぎゃーてー、ぼじそわかー、はんにゃしんぎょう」

 花子が経を唱えているのは確かだ。

 しかし、なんという経なのか。もちろん晴也には知りえぬ、仏教の学問である。

ちなみに、花子が唱えているのは般若心経といい、宗派を問わず最も広く読まれている経である。

 本来、経は大きな声で読まねばならぬが、花子や吉郎もさすがに人目を憚ったのだろう。

花子はなるべく小声で経を読み、吉郎と晴也も見様見真似でぼそぼそと唱えていた。

『あの、お経の一つでもあげるべきでしょうかね?』

 言いだしっぺは花子であった。

『そうやなあ、そうしたった方がええかもしれん』

『じゃあ、そうしましょうよ』

 やはり僧侶の孫娘であるからなのか、霊的な事に関しては放っておけぬ性なのかもしれない。


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