必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
「む!?」
「悲鳴?」
あまりに高い女の金切り声に、晴也は耳を塞ぐ。
そんな晴也をよそに、霊的な共通点を持つ二人は、悲鳴の出どころを睨み付けた。
農業科棟からではない。その隣にある本館からだ。
相前後、大股で吉郎が駆けだした。
「お前らは先に帰っとれ!」
それだけを残して、吉郎は本館の生徒玄関へと急いだ。
だだくさに泥まみれのスニーカーを脱ぎ捨て、スリッパも穿かずに本館へと踏み入る。
「晴也君、いこっ」
先に帰っていろといわれたにもかかわらず、花子はうろたえる晴也の手をがしりと掴んだ。晴也が状況を把握しているうちにも、花子は並の女子とは思えぬ速さで走り出した。
「いてっ」
手を掴まれたまま花子が走るので、晴也は躓くわ転びかけるわでよたよたになる。
晴也は絵に描いたような文弱の徒で、以前に記したとおりあまり運動は得意ではない。いや、むしろ苦手だ。
しかし運動音痴ながら、必死に花子の華奢な背を追った。
花子はどうやら、運動神経が図抜けて優れていると思しい。
これで頭脳も明晰だったら、まさに性癖を抜いては完璧な美少女と呼べただろう。
だが晴也は階段を上る頃には息も絶え絶えで、考える事すらままならなくなっていた。
二段、四段、六段、と階段を駆け上り、晴也と花子は教室の戸口で立ちすくむ吉郎を発見した。
「先輩」
両肩を上げ下げしながら、晴也は吉郎を呼んだ。
すると吉郎は振り向きもせず、はあー、と長大息をつくのだった。
「あのなあ、お前ら。来るなって言われたのに、なんできちゃうの?
確かにそういうパターンって、どこのアニメでもあるけどなあ、ちょっとは言う事きこうよ」
「悪いですけど、僕は、そんなことすると、目覚めが、悪くなる、性質なんですよ」
とぎれとぎれの息遣いで捻くれた反論をし、晴也は吉郎の傍らに立つ。