必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
チラシの右端に記された部室の場所は、本館の左端、しかも末端にある古びた空き部屋だ。
(とりあえず、紙を出してからにするか)
部活動見学で時間をくってしまうと提出が遅くなる。
ブレザーのポケットからボールペンを取り出し、書類の所属決定欄に『学校奉仕活動部』と書く。
部活動見学はその後だ。
しばらくして、職員室から慇懃に頭を下げて出てきた晴也は、例の学校奉仕活動部へと赴くことにした。
本館の職員室から部室まではあまり遠くはない。
渡り廊下の出入り口を過ぎた所には生徒指導室がある。
そこからずっと前に行った所にある部屋の扉には、藍染めの垂れ幕が垂らされていた。
そこには白い筆文字で、『学校方士活動部』とある。
はて、先ほどのチラシにしてもそうだが、やたら誤字が多すぎではないだろうか。
小首をかしげつつも、朱い五芒星を背景にした垂れ幕を退け、扉を前に押した。
「失礼します……ぎゃっ」
部室に入ってすぐさま、晴也はその場に尻餅をつきそうになった。
思わず後ろに飛び退く。
晴也の目に砲弾が如く飛び込んできたのは、平安時代の似顔絵を思わせる、垂れ目で色白の顔だった。
改めてその全貌を見てみると、晴也の眼前に居るのは、平安朝の男の面を被った、作業着の少年だ。
「おっ、大丈夫か?」
奇妙な面の少年は、長身をかがめて晴也に手を差し伸べた。
被っている面に反して、少年の手は陽に焼けて浅黒い。
眼鏡の位置を正して、晴也は腰を持ちあげた。
「はい、すみません……」
「いやあ、すまんなあ。このお面にびっくりしたやろ」
「は、はい……」
人を驚かせてしまうという事を自覚しているのなら、なぜ面を外そうと思わないのか。作業着の少年は、よほどその面を気に入っているらしかった。
「ところでお前、見ん顔やな。新入生か?」
少年の言語は明らかに標準語ではない。
関西弁に類似している。
おそらくはその辺りの言葉だろう。晴也は上目遣いに、
「ああ、はい。入部希望者です。学校奉仕活動部の」
「なにっ」
少年は晴也との距離を縮め、大股でぐっと平安風の面を近づけた。
その分厚い唇と自分の唇が接触しそうになったので、肌を栗立てて晴也は身を引く。
「この部に?ほんまかいな、冷やかしやったらSMプレイの餌食にするで?」
「ひっ、冷やかしじゃありませんよっ。つうか、何ですかそのSMプレイって」
いいや、だいたいどういう事かは、思春期を経験した者なら理解できる。
晴也も何となく察しがついていたが、あまり具体的に想像したくはない。