必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】

「俺が部長務めて丸一年、誰一人として入部希望者おらへんかったねん。

今日は雪でも降るんかな。な、マジメ眼鏡くん」

「はあ……」

「し、か、も。こんな下っ端さながらの、かわええ顔した後輩が入ってきてくれるなんて。

伊邪那岐も伊邪那美も俺に味方してくれたみたいやわあ。

いやはや、昨日がんばって似非祈祷した甲斐があったわ」

 作業着の少年――男子生徒の部長はとにかく舌が回る。

 伊邪那美だとか伊邪那岐だとか祈祷だとか、彼は神道関係の用語を口にする。

伊邪那美と伊邪那岐。

勉学のみならず雑学も頭に入れている晴也の脳は、おのずと回転した。

「伊邪那美と伊邪那岐、知ってます。二人は日本の神。

二人が産んだ子供は、風林火山、森羅万象を司る神々になったんですよね」

「そうそう、要は神様らのおかんとおとんや」

 人差し指をぴんと立て、部長は踵を返して部室の扉を大きく開いた。

「ささ、雑学大会なんざさておいて、入りいや。

初の新入部員、陰陽部の部長の名に懸けて、盛大に歓迎するで」

「おんみょうぶ?」

 ここは学校奉仕活動部ではなかったか。

問う暇も与えず、部長が背を押して晴也を部室に招待する。

(おんみょう、って……)

 中学生の頃に習った古典『大鏡』の全文の一説が、一閃の光となって駆け抜ける。

″今は昔、天文博士安倍晴明といふ陰陽師あり。″

″古(いにしへ)にも恥ぢず、やむごとなかりける者なり。″

″幼の時、賀茂忠行(かものただゆき)といひける陰陽師に随ひて、昼夜にこの道を習ひけるに、いささかも心もとなきことなかりける。″

″然るに、晴明若かりける時、師の忠行が下渡りに夜歩きに行きける供に、歩(かち)にして車の後ろに行きける。″

″忠行、車の内にしてよく寝入りにけるに、晴明見けるに、えもいはず恐ろしき鬼ども、車の前に向かひて来けり。″

″晴明これを見て驚きて、車の後ろに走り寄りて、忠行を起こして告げければ、その時にぞ忠行驚き覚めて鬼の来たるを見て、

術法(じゅっぽう)をもつて忽ち(たちまち)に我が身をも恐れなく、供の者どもをも隠し、平らかに過ぎにける。 ″






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