必見・夕暮れの陰陽部!【短編版】
そういえば、部長は視界が悪いにもかかわらず、常に面を被っている。
ふと、
「あの、先輩」
「なんや」
「先輩の名前は、なんていうんですか」
すると、部長は瞠若してしばらく思案顔になった。言うべきか言わざるべきか、と迷っているのが見て取れる。
そして、いざ、とばかりに決断したようにうなづく。
「あんまり言いたくないんやけど、まあ、名前だけ教えるわ」
「はい」
「吉郎(よしろう)や。よしろう」
これはまた、一回り昔を思わせる名前だ。
「吉郎ってさ、なんか古臭い名前やろ」
「違うって言ったら嘘になります」
「そうやろそうやろ。うちのオカンはよお、伝統だとか古いものだとかに、えらい固執しすぎやねん。マニアやで、あれは」
ぶつくさとやたら文句を唱えながら、部長―――吉郎はチョコレート菓子をがりがりと咀嚼した。
晴也も菓子に手に取り、軽々と口に放り投げる。
「あ、それともう一つ気になってたんですけど……」
「んん」
「ここって、基本的にどんな活動してるんですか?
他の部活とかでは、みんな体験とかさせてもらってるんですけど」
そこで、吉郎は菓子を喰う手を止め、傍らに放置されていたファイルの山を引き寄せた。
そして淡い碧のファイルをめくり、一枚一枚と目を通し、閲してゆく。
「おお、あったあった」
吉郎は言うや、何の変哲もない白紙を取り出し、それを数枚、机に並べるのだった。
点字を打つための容姿にしては薄い。
あれは厚紙でないと作れいないからだ。
吉郎は続いてポケットからハサミを出し、その二つを晴也の前に提示した。
「この紙を、簡単な人の形に切ってくんや。ほら、そこらじゅうに張ってある、あの紙人形みたいに」
「あんな感じでいいんですか。……ってか、これで何するんですか?」
「何に使うと思う?」
はぐらかされても困る、と思いつつも、晴也は返された問いに応じるのだった。
「やっぱり奉仕活動部だし、ボランティアで学校のために使うとか」
「ぶぶーっ」
吉郎はたこのように口先をすぼめ、腕を交差させて否定の印を表した。
「なあなあ、ハルヤデス君。ここはボランティア部やないで?」
「えっ?」晴也は吃驚する。
「だって、奉仕活動って書いてあるじゃないですか」
「ボランティアって意味の『奉仕』やないで」
高い声で言うなり、吉郎は奥の部屋からホワイトボードをごろごろと引いて運び、そこに黒のマジックで『方士』と記した。
「学校方士活動部。これがうちの部や」
「方士って……そういう事だったんですか!」
「いや、すまんすまん。その様子やと、俺、チラシに『方士』を漢字で書いてへんかったみたいやな」
「というか、なんですか。その方士って」
一転して半ば怪しげな顔になる晴也に、吉郎は、よくぞ聞いてくれた、とばかりにさらにホワイトボードに漢字を書きこんだ。