ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
Prologue
一八七×年 十二月 二十二日
また、聖夜が巡って来るのか……。
あれから、もう一年が過ぎたんだな。
書斎の窓から鉛色の空を見上げ、彼は深いため息をついていた。
*** *** ***
その日ロンドンには、朝から冷たい霙が降っていた。
どんよりした雲間から、重い氷の粒が一つまた一つ、落ちては消えていく。
人影もまばらな冬の午後、貴族達が住むウェストエンドの一角にある、ウェスターフィールド子爵邸に一人の紳士が訪れた。
「この方が、お探しのミス・ローズマリー・レスターです。間違いございません。村の者の話では、今年初めに学校教師として赴任して来たと……」
「もういい。わかったよ」
「……閣下? いかがなさいました? この調査結果に何かご不満でも?」
依頼主の抑えた苛立ちを感じ取り、書斎の大きな書き物机をはさんで向き合っていた弁護士が驚いて尋ねた。
はっとしたように額にかかる長めの黒髪をかきあげて、彼はいつものポーカーフェイスに戻る。
「いや。あなたは本当によくやってくれたよ。もう十分だ。ご苦労だったね。謝礼金は、倍額支払おう」
「では、わたくしはこれで……」
弁護士は一瞬浮かんだ満面の笑みをきれいに包み隠して、帽子を手に深々と一礼し、退出する。
一人になると、ウェスターフィールド子爵エヴァン・ジェイムズは、机に置かれていた書類を取り上げ、丹念に目を通しはじめた。
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