ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
そこまで考えて、ローズは急に心臓が止まりそうになった。
まさか……、あの人と何か関係があるの?
だが表には出さず、努めてさりげなく尋ねる。
「いいえ、そんな人知らないわ。きっと人違いよ。第一、どうしてわたしを探しているのかしら?」
「さあ、理由は言わなかったね。わたしがソールズに住んでると姉から聞いたらしくて、そこにこういうふうな女性はいないかとお尋ねでね。どうもあんたのことらしいからそう返事したら、本当に、しつこいくらい何度も確認されてね。それはもう大喜びで! 踊りださんばかりだったよ」
「………」
背筋が急に汗ばんでくるのを感じた。
彼女の顔色の変化に気付いたように、婦人は、それじゃわたしはこれで……、と会釈をして、そそくさと立ち去っていく。
ローズは動揺を抑えようと、じっと正面にある十字架を見つめた。
今、礼拝堂に残っているのはもう彼女だけだった。めまいを振り払うように頭を振ると、とにかく外へ出ようとゆっくりと立ち上がる。
そのときだった。
教会堂の入り口に影が動いた。
見開いたローズの目に、外の光を覆い隠すように立ちふさがった、背の高いしなやかな男の姿が飛び込んできた。