ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
メイベル・リー夫人は夫とともにこの城の管理を任されている年取った家政婦だった。
「まぁまぁ、お嬢様、また大きくにおなりですこと。もうすっかりレディですね」
嬉しそうに声をかけて、マーガレットにお辞儀している。
次に子爵が降りてローズに手を差し出した。二人の手が触れ合った瞬間、何か衝撃のようなものが走り、ローズは慌てて手をひっ込めた。
子爵はといえば、何もなかったようにリー夫人に声をかけながら、先に立って中に入っていく。
自意識過剰だわ……。
ローズは自分を戒めながら後に続いた。与えられた部屋に入り沐浴して衣服を着替える頃には、気持ちも落ち着いてきた。
早めに一人で夕食を済ませると、散歩しようとショールを巻いて外へ出た。
澄み渡った秋の夕暮れは、少し肌寒くなっていたが、薄暮の空を背景に浮かびあがった金色の森と城は、まるで一枚の絵の様に美しかった。
心に浮かぶ詩を口ずさみながら歩いていたローズは、ふと視線を感じて立ち止まった。
テラスに立ってこちらを見ていた子爵が歩み寄ってくるのに気づき、訳もなく足がすくんでしまう。