ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 結っていた髪を、解いてしまったのが悔やまれた。

 もう少しきちんとした格好をしていれば、まだましだったのに。

 逃げ出したいのをこらえて、じっとしていると声がかかった。

「ミス・レスター、どうして夕食に来なかったんだい? 長旅で疲れた?」

「あまりあつかましいことは、控えるべきだと思いまして」

 ローズは膝を曲げてお辞儀しながら堅苦しく答えた。そんな彼女の態度に、子爵が苛立ったように声を荒げる。

「何を緊張してる? 馬車の中でもかちかちになっていたね。ぼくが怖いのかい?」

「あなた様が、というよりも、男の方とこれまで接する機会がありませんでしたから……。多分そのせいなんです」

 彼の剣幕に少し驚きながら、いそいで答えると、子爵は再び何気ない顔に戻った。

「君は最近までロンドンの寄宿学校にいたそうだね。学校は楽しかった?」

「そうですね……。あんなに規則が厳しくなければ、もっと楽しめたかも知れません……」

「ふーん、君は模範生だったの?」

「必ずしも、そうとは言えなかったですけど……」

 思い出して、少しいたずらっぽい表情になる。やっと気分がほぐれてきた。

< 107 / 261 >

この作品をシェア

pagetop