ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「子爵様、こんな素敵な所に連れてきていただいて、とても感謝しています」
「ここが気に入ったかい?」
「はい、とても……。まるで御伽噺に出てくるお城のようで」
話しながら、二人は歩くともなく歩き始めていた。前方に金色の森が、音もなく静かに横たわっている。
「ここは、我が家の一番古くからの荘園さ。あの城はクイーン・エリザベス時代に建てられたものだ。もうかなり古くなっているから、あちこち手を加える必要もあるけどね。この森は……」
子爵は周りを見渡して付け加えた。
「秋も美しいが、一番美しいのは何といっても五月だな。いっせいにいろいろな花が咲き揃い芳しい香りが満るんだ。その頃に……」
その時、強い一陣の風が二人の間を吹き抜け、落ち葉とローズの長い金髪を吹きあげた。
とっさにローズはショールで顔を隠し、収まると驚いたように澄み切った薄暮の空を見あげ、晴れやかな笑顔を浮かべた。