ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
そのダークブルーの瞳に射抜かれた瞬間、ローズは気を失うかと思った。
ふらふらと、脇のベンチに再び崩れ落ちるように座り込む。そのくせいっぱいに見開かれた目は、彼の姿に引き付けられて離れない。
血の気のない唇から、絞り出すような声がもれた。
「エヴァン……なの?」
「そう、僕さ。ローズマリー、名前を覚えていてくれてありがとうと、礼を言うべきかな?」
皮肉たっぷりの言葉とともに、その人はゆっくり近づいてきた。室内の薄暗さと被っている帽子のせいで表情はよく見えないが、彼が緊張しているのはありありとうかがえる。
エヴァン・J・ウェスターフィールドが緊張? そんなこと、ありえないのに。
子爵は彼女が座り込んでしまったベンチの前で足を止めた。
震えている彼女を鋭い双眸がしっかりと捕らえる。その目にこもった激しい怒りを感じ取り、次第に息苦しくなってくる。
しばらく無言で観察した後、彼はおもむろに言葉を継いだ。懐かしい深みのある声がなめらかに響く。
「メリー・クリスマス。ふーん、あまり元気そうには見えないな」
「どうして……? あなたがここに来るなんて、夢にも思わなかったわ」
干上がった喉から、ようやくかすれた声を絞り出す。これだけ言うのが精いっぱいだった。