ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「『どうして』……?」
子爵は、軽蔑しきったように形の良い眉を上げ、軽く彼女の問いを繰り返した。
「突然、置き去りにされた元婚約者としては、どうしても一言理由を聞かずにはいられなくてね。ずっと君を探してた。どうも、君は人情にすら欠けているらしいね。その可愛い顔にだまされていたとは、僕もまったく間抜けだった」
あまりの言葉にショックを受け、逆に舌が動くようになった。青ざめた頬に赤みが差し、ひたと目の前の傲慢貴族を見返す。
「それではまるで、一方的にわたしが悪者で、あなたは被害者、そうおっしゃりたいように聞こえますけど?」
「違うのかい?」
おや、と言うように彼が優美な眉をつり上げる。
「事実だろう? もちろん言い訳は考えているかもしれないけどね」
「とんでもない言いがかりだわ! あなたこそ、ひきょうな二重の……」
思わず事実をもらしそうになって気がつく。こんなこと、もうすべて終わった話じゃないの。今更蒸し返して何になるの?
一年前のあの夜に、子爵家の豪奢な奥の間で、ベッドに身を起こし残酷な宣言をした高貴な老子爵夫人の姿は、今もはっきりと覚えている。
そう、あの言葉こそが真実だ。