ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「さっきの勢いはどうした? それに話すときは相手を見て話すべきだね。社交の基本中の基本だと教えたはずだよ」
「ここは神聖な場所だわ。こんなお話……、これ以上したくありません」
そう言って立ち上がろうとしたが思わずふらついた。彼の手が支えるように肩にかかり、ビクリとする。
「ひ、一人で歩けます。触らないで……」
避けようとして、かえって片手が彼の手に包み込まれてしまった。
いそいで引っ込めようとしたが、彼はさらに強く握りしめると、指先で愛おしむように触れている。
振り切ろうと力を入れるローズに動じる風もなく、エヴァンはゆっくり頭をかがめると、華奢なその手を自分の唇に押し当てた。
彼女の頬が赤くなり、触れられた場所がじんじんと熱を帯びる。さっと手を振り解くと、今度はエヴァンも止めなかった。
「ウェスターフィールド子爵様……」
ニ、三歩後ずさりながら、ローズはなるべくしっかりした声を出そうと努力した。
「わたしのことなんか、もし少しでも心配してくださっていたのなら……、ごめんなさい。でもわたしはあなたにとっても自分にとっても、一番良いと思うことをしただけです。どうかよいクリスマスを」