ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「これは見違えたよ。いったいどこのレディだい?」
テンプル夫人の許諾を得て、ついにウェスターフィールド邸に戻る日。迎えに来た子爵はローズを見るなり嬉しそうに声を上げた。
ローズははにかみながら、礼儀にのっとり完璧にお辞儀してみせる。
「よくがんばったね。これなら王宮に伺候しても恥ずかしくないよ」
エヴァンの満足そうな言葉を聞いて、一ぺんに苦労が報われた気がする。
いよいよそのパーティを明日に控えた前日の午後。ウェスターフィールドの屋敷は準備で上へ下への大騒ぎになっていた。
それに紛れるように自分の部屋に届けられた大小様々な贈り物の箱を前にして、ローズは呆然と立ちすくんでいた。
恐る恐る開いてみる。何枚もの美しいシルクやサテン、紗やビロードのドレスに始まり、豪華な飾り帯び、靴、靴下、宝石、リボン、その他レディの身繕いに必要な道具が、幾種類も調っていた。
これだけ買い揃えるために一財産使ったに違いないと思える品々だ。子爵に会った時そう言うと、彼はほがらかに笑った。
「明日は君の晴れなるデビューの日なんだ。未来のレディ・ウェスターフィールドとしてふさわしい装いを凝らしてほしい。誰も文句のつけようがないくらいね」