ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「本当におきれいですわ。旦那様が夢中におなりになるのも当然ですね」
「このドレスのせいだわ。まるで魔法みたい」
「準備はできたかい?」
ノックと同時に黒の正装で室内に入ってきた子爵は、目の前に立った貴婦人を見たとたん言葉を失った。
彼のダークブルーの瞳がサファイヤのようにきらめき、たちまち陰りを帯びる。
ゆったりと握られていた片方の拳に、瞬間ぐっと力がこもった。
彼女に正装をさせたらどんな風だろうと、常々想像していた以上だった。
美しい……。まるで今まさに花開こうとしている白百合の花だ。
しばし呆然と見とれている主人の前で、メイドがこほんと小さく咳払いをし、細い肩にレースのショールをかけた。
そして「ではわたくしはこれで」 とそそくさと部屋を出ていく。
エヴァンは、こほん、と一つ咳払いして、ローズに近づいた。
「……綺麗だよ、とても」
いつもなら、かなり気の聞いた言葉が出てくる世慣れた彼も、今目の前に恥ずかしげに立っている貴婦人を前には形なしだった。