ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

「疲れたかい?」

 子爵が心配そうな顔になる。

 大丈夫、と言うように首を振ったが、やはり気持ちは隠せなかったらしい。彼女に回した手に力が込もった。

「愛してるわ……」
 ローズは彼に身体を預けて踊りながら囁いた。彼の目が熱っぽくきらめき、その眼が一心に彼女に注がれる。


◇◆◇

 ワルツが終わると子爵は親族に引き合わせるため、彼ら十数人が一同に会しているテーブルにローズを連れていった。

 皆、眉根を寄せて、あるいは興味本意に、歩いてくる彼女をじろじろ眺めている。

「先ほどお話した通り、わたしと婚約したミス・ローズマリー・レスターです。以後、よろしくお願いします」

 子爵はローズの右手を取って軽く持ちあげ、落ち着き払った有無を言わさぬ口調で、親族一同にこう告げた。

 ざわめくようなひそひそ声が起こる。

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