ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
chapter 2
キングスリー家の屋敷は、ソールズ村の上手の丘に建っている。キングスリー氏は四十代半ばの恰幅のいい紳士で、妻と二人の子供達と共に暮らす地方の大地主だった。
デントは物思いに沈むローズの手を取り、さっきから得意気にホールを歩いていた。
ローズは完全に上の空だった。エヴァンとの突然の再会のショックに全神経が痺れたようになっていて、まだ正常に機能していない。
最初の衝撃が次第に収まってくると、今度は心からの喜びが抑えようもなくこみあげてきた。
あの人にまた会えた! あの声が聞けた! その上忘れられていなかっただけでなく、自分を探してくれていたなんて……。
一年前、子爵家を追われてから、もう彼のことは考えまいとあれほど誓ったのに、この身勝手な感情は何だろう、と我ながらあきれるが、自分に嘘はつけなかった。
泣き出しそうになって今いる場所を思い出しあわてて抑える。もうすでにグラスを手にほろ酔いになっているデントは、
「ほら、うまいぜ。あんたも食べてみろよ。おおっと、そう緊張しなさんな。あとで手取り足取りダンスを教えてやるからな」
などと言いながら、彼女にべったり張りついて一向に離してくれそうにない。
この男と踊るとは考えただけでも虫唾が走る。ローズはデントを遠ざけようと飲み物を頼み、その隙にさっと人に紛れ込んだ。