ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「つまらないことなんかじゃないわ。現実が見えたのよ。甘い夢から覚めたってこと」
「現実?」
彼はローズをさらに引き寄せて呟いた。
「今、二人でこうして一緒にいる。これ以上の現実がどこにある?」
なだめるような言葉に、固めた決意がまたぐらつき出すのを感じる。返事につまったローズにさらに畳み掛けるようにエヴァンが言った。
「明日、一緒にウェスターフィールド邸に帰ってくれるね? 今更、どうやって君なしで暮らせる? もう後戻りしようとしても遅いよ」
だが、ローズはそれ以上何も言わずに黙って首を振ると、彼から離れ、静かに部屋を出ていった。
結局、その後なお二日間、二人はヴィラに滞在した。どちらも譲らないまま、話し合いは完全に膠着状態になっていた。
いい加減で、ロンドンに戻らなければならない。説得を繰り返していた子爵の忍耐もついに底をつき、ローズのあまりの頑固さに腹を立ててしまった。
「もうこれ以上、こんな言い争いはしたくない。自分がどんなに馬鹿なことを言っているか、冷静になってよく考えてみてくれ」
吐き捨てるように言うと、彼はお茶を運んできた婦人には目もくれず、部屋から出ていってしまった。