ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
chapter 14
ローズの伯父一家は、ロンドンの目抜き通りで商事会社を営んでいた。
ミッチェル・ハワード氏は、六年前に亡くなったローズの母親より四歳年上で、穏やかな人当たりのよい人物だと界隈でも評判だった。
家族は妻のオリビアと息子が二人。オリビアはごく普通の主婦で、多少見栄を張って雇っているハウスメイドとともに、日常の細々した事柄に神経を遣いながら暮らしている。
いつもと変わらない霧の午後。ふいに前触れもなく豪華な二頭だての馬車が、ハワード家の前の石畳に止まった。
窓から何事かと顔を出した長男、パトリックの目に、ラベンダー色の旅行用ドレスを着た貴婦人が、同じく立派な身なりの貴族然とした男に付き添われて、馬車から降り立つのが見えた。
好奇心を抑えて見ていた彼は、二人がこの家の扉を叩くのを見て首を捻った。
我が家にいったい何の用だろう? そう思った途端、階下で甲高い驚きの叫びがあがった。
「パトリック! 早く来てちょうだい」
慌てて下りていくと、狭い玄関ホールに、貴族然とした二人連れが立っていた。
いぶかりながらも、敬意をこめて挨拶する。