ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
執事は気遣わしげに歩き回っていたが、やがて所在なげにいつまでも起きているマーガレットにそっと声をかけた。
「お嬢様、時間も遅くなって参りましたし、もうお休みになられたほうがようございますよ。旦那様もずいぶんお疲れのご様子、お話はまた明日になさっては」
最近少し大人びてきたマーガレットは、兄と同じ美しいダークブルーの瞳を曇らせて、執事を見あげた。
「お兄様、ひどく思い詰めたお顔だったわ。先生はどうなさったのかしら。今度こそ、一緒にお帰りになると思っていたのに……」
「さあ、本当にどうなさったんでしょうね」
執事も深いため息をつく。
毎日、子爵の様子に胸を痛めながらも、どうすることもできずに見守っていた者達にとって、この成り行きは他人事ではない。
やがて子爵邸から灯りが消え、あたりは完全に夜の帳に包まれた。
深くなっていく霧の中、ガス灯の鈍い光だけがぼんやりと浮かんでいた。