ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
子爵はまだ起き抜けのようだった。
シルクのシャツに黒のズボン、その上に銀糸で縫い取りのされた黒いガウンをはおっただけという軽装のまま、窓辺に立って外を眺めていたが、パトリックが入っていくとすぐに歩み寄ってきた。
ていねいに椅子を勧め自分も向かいに腰を下ろす。すぐに、メイドがお茶を運んで来た。
パトリックが帽子をいじりながら形式ばった挨拶を始めるや、苛立ったように手を振って遮り、単刀直入に尋ねた。
「彼女はどうしてる?」
その声の響きにはっとしながら、彼は懐から預かった手紙を取り出した。
「実は、いとこにこれを閣下にお届けしてくれと頼まれて参りました。彼女もずいぶんつらそうですが、昨日よりは少し元気になったかもしれません」
手紙を手に取った瞬間、子爵がぎくりとしたように目を見開いたのが分かった。
一緒に中に入っている「何か」のためなのだろう。それが何なのかパトリックは知る由もない。
だが子爵は事もなげに礼を言うとお茶を勧め、ハワード商会の事業のことを少し口にした。
やがて、パトリックはほっとした顔で一礼すると、書斎を出た。