ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 また来ますと言い置いてハワード家から出てきたものの、このまま彼女が帰ってくるまで待とうと思った。

 心の中に、オリビアの言葉が渦を巻いていた。

 新しい勤め口。そして短い手紙とともに送り返してきた指輪。

 それではやはり、それが彼女の答えなのか。彼女はもう自分から完全に離れたところで、新しいスタートを切ろうとしているのだろうか。

 とにかく彼女に会わなければ。会えばこんな不安はすぐ消せる。あの手紙が彼女の本心のはずはないのだから。

 馬車を少し先にやり、建物の影から往来を睨みながら、ひたすら待ち続けた。寒かったが、心痛があまりに大きくてそんなことはすっかり忘れていた。

 どれくらいそうしていたのか。

 ようやく角を曲がってフード付きのマントをまとったローズが姿を見せた。

 ゆっくりと彼女の前に立つ。子爵に気づいた途端、彼女の顔色が変わり全身がさっと緊張した。

 その顔を一瞥してすぐ、泣きはらした赤い目と涙の跡に気づく。彼の緊張が少し緩んだ。
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