ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「泣いていたね? 馬鹿だな。そんなに泣くくらいなら、どうしてあんな手紙を寄越したりしたんだい?」
ローズがはっとしたように目元に手を当てた。
「指輪を……どうしてもお返ししなくてはならなかったんですもの。あんな大切なものを、これ以上一日もお預かりしていることはできないですから」
「つまりは……、最初から返すつもりで受け取ったってこと?」
「ごめんなさい。ほんの少しだけでも、夢を見たかったんです……」
あきらめたように顔をあげたローズの腕を掴むと、彼は有無を言わさず歩き出した。
彼女を馬車に無理やり押し込むと、乱暴にドアを閉めてしまう。
「あなたって、ときどき本当に無茶苦茶になるのね」
急に馬車に閉じ込められた格好になり、ローズがあきれたように笑った。
エヴァンも苦笑する。
「普通ならこんなことは絶対にしないさ。往来で立ち話なんかできないだろう? ハイドパークかどこか、静かな場所へ行こう」
「いいえ、もうどこにも行かないわ!」