ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 二人が同時に振り返ると、黒いタキシード姿の子爵がくつろいでこちらを眺めている。

 その顔には、面白がっているとも見える、皮肉な微笑が浮かんでいた。

 ローズが声も出せずに突っ立っていると、彼はゆっくり近づいてきた。

 デントの方にちらりと、だがぞくっとするほど威圧的な視線を投げたので、さしもの大男も気押されたように後ろへ下がる。

 子爵は甘い微笑を浮かべてローズの前に立つと、優雅に会釈した。

「どうぞ一曲お相手を、レディ」

 そして、彼女が抵抗する暇も与えず、人々の注目をものともせずに、悠々とローズを踊りの中へ引き入れてしまった。すぐに音楽が始まった。

「踊り方は覚えてるんだろう? みんなが見ている。ほら、ステップを踏んで」

 耳元でささやかれ、はっと我に返る。

 確かにホール全員の眼が自分達に集まっていた。ことに羨望に満ちた女達の目がつき刺さるようだ。

 仕方なく彼の胸元を見つめ踊り始めた。

 背の高いエヴァンと向き合うと、ローズの目線はちょうど彼のクラバットの付近。彼は口元に笑みを浮かべ華麗にリードしていく。だが瞳は依然として冷たくローズを見据えたままだ。

 身体の力が抜けてその場に崩れ落ちそうになるのを何とかこらえていた。

 どうしてこういうことになるの?
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