ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
ウェスターフィールド邸を出てから数ヶ月。
ようやく採用が決まったこのイングランド西部のソールズ村に、教師としてただ一人やってきた。
文字通り木のトランク一つだけを抱えて。
そして始まった新しい生活。
朝起きてから夜くたくたになってベッドにもぐりこむまで、新米教師として懸命に、けれど楽しく子供達を教える日々が過ぎていった。
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「もうこんな時間なの? 大変、いそいで支度しなくっちゃ」
気がつくと、朝の日差しが外の冷気を破って射しこんでいた。
ローズは突然おそってきた追憶と感傷の波を振り払うように立ちあがった。
今は過去の思い出に浸っている場合ではない。
元気を出して、当面の問題に立ち向かわなければならないのだ。
そう、先月分の家賃を家主に納めること。
お給料を貰ったら真っ先に払いますと言ったものの、今度は食費が厳しくなる。まったく、思い出すだけでいやになる現実だった。
ひと月三ポンドの教師の収入で、女一人暮らしていくのは簡単ではなかった。暖かい村人の心づけが届く日もあったが、文字通りパンと水だけの日もあった。