ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 それでも、村での暮らしに少しずつ慣れてきていた。

 アルファベットすらろくに知らないが、感受性豊かな子供達に、自分の知識を分け与えるという新しい心の糧を得て、ローズは、こんな生活も悪くはないと思い始めていた。

 今日は聖夜だ。クリスマス礼拝の後は、村の大地主であるキングスリーの屋敷でダンスパーティが開かれるという。
 必ずお越しくださいと、昨日やけに念を入れてメッセンジャーが招待状を置いていった。綺麗なドレスもないけれど、やはり少し楽しみにしている。


 とかした金髪をリボンで束ねると、型は古いが自分によく似合う濃い緑の服に、黒のウール地のマントをはおって外に出た。

 微かに雪の舞い散る中、教会付近はすでに結構な人出だった。

 会釈しながら教会堂に入ろうとすると、背後から大声で呼び止められる。

「ミス・レスター! まったく寒いねぇ。メリークリスマス!」
 

 オリバー・デントの声だ。

 ローズは顔をしかめた。デント家はソールズ村で一、二を争う富裕な農家らしいが、彼はその大きな体躯を軍服に包んでのし歩くだけの、がさつで品位のかけらもない男だった。

 何かにつけて、自分に近づこうとしているようで、たまらなく嫌だった。たちまちローズの中で警鐘が鳴り響く。
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