ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

「ほらほら、まったくしようがないね」

 ミセス・マージョリーが、あきれたように答える。

「この人の相手が誰だろうが、あんたにはまったく関係ないじゃないかね。困ってなさるのがわからないのかい?」


 その時牧師が入ってきて賛美歌が始まり、話はそれまでとなった。ローズは心底ほっとした。


 やがて説教が終り、メリークリスマスの声とともに、人並みが教会堂の出口に向かって徐々に動いていく。

 帰ろうと立ち上がったとき、小太りの女がいそいそと近づいてきた。生徒の母親の一人だ。何か言いたいことがあってはちきれそうになっているのは一目でわかった。

「実は先週、招かれて町に住む姉の家まで行ったんですが、その時お会いした人に、先生のことをいろいろと聞かれてね」

「わたしのことを? 何かしら?」

「何でも、ロンドンの弁護士さんだそうだよ。レスター先生、あんたのことを、今までずっと捜していたそうですよ。あんたのこと、前々から、こんな田舎村にはもったいない人だと思ってたけど、もしやどこかの……」


 ロンドンの弁護士ですって? そんな人物に知り合いは一人もいない。行方を探される覚えもないのに……。


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