僕の可愛いお姫様
一通りの時間を過ごしてから、間合いを持て余す様になった頃、私達は漸く椅子から腰を上げた。

この喫茶店を利用するたびに、その席を長時間独占してしまう私達に、店員さんは嫌な顔一つせず、「ありがとうございましたー!」と笑顔で送り出してくれる。

どれだけ忙しくても、どんな注文をつけられても笑顔で対応する人に、「プロだな。」と感心せずにいられない。

会計を済ませて外に出ると、外気は昼間よりも冷たくなっていた。



「危ないっ…!」

歩道の隅、ふいに腕を引かれよろめいた。

「あ…、ごめん。ありがとう瑞穂。」

二人の真横を自転車に乗った女性がスッと通り過ぎた。
その後ろ姿を惚ける様に眺める。

夕陽に落とす、四つの影。
腕を引かれた一際長い、二つの影。

「梅雨李、大丈夫?」

莉世が優しく笑いかける。
その声に弾かれた様に、漸く我に返る私がいた。

「あ…、うん。大丈夫。瑞穂の反応が早くて助かったぁ。」

おどける様に言った私に向けられたのは、瑞穂の厳しい視線だった。

「お前な。ちゃんと周り見ろっていつも言ってるよな?
怪我するのはお前だけじゃない。相手にも迷惑かかるんだぞ。」

「ご…めんな、さい…。」

俯く私に莉世は、やっぱり笑ってくれる。

「だーかーらー!瑞穂は言い方厳しすぎ!梅雨李だって解ってるわよ。ね?


「俺が厳しく言わなきゃ誰も言わねぇだろうが。甘やかすな。意地悪で言ってるんじゃねぇんだ。
大体な、俺じゃなくて泉。お前がもっとちゃんと…」

「あー、はいはい。もう終わり!
梅雨李は次から絶対に気を付ける。泉はなるべく梅雨李の近くにいる!それでいいでしょ。」
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