僕の可愛いお姫様
私を抱き締めるその腕は、強く、だけど壊してしまわないように、注意しているのがよく解った。

この人の中での私の存在や、私の中での彼の存在が、もう何なのかさえ解らない、この小さな箱の中で、けれど彼だけが、今の私を生かしている。

確かな事は、それだけだった。

ふわりと優しく髪の毛を撫でるその掌を、ゆっくりとほどく。
中腰で膝をつく形の彼は、私よりも大きい。

彼のパーカーの裾に、手が伸びたのは、「自然現象」だった。



「すき…。」

不意に自身の口から飛び出た音に、
そして怯える様な、彼の瞳に、
この世界が壊れていく音を、聴いた気がした。
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