僕の可愛いお姫様
「ねぇ、梅雨李。お腹空いたでしょう。
コンビニの物だけど、サンドイッチ、買ってきたんだ。一緒に食べよう。」

ハムと卵のサンドイッチを、梅雨李が食べやすいように小さく千切って、彼女の口元に運ぶ。

小さく開けた口で、パクッと彼女は飲み込んだ。

生気の感じられないその瞳は虚ろで、俺よりも、もっと向こう側を見ている様だった。

ねぇ、君は…俺だけを、此処に居る俺だけを、見ていればいいんだよ。

「その瞳に俺以外を映しちゃいけない。その声で俺以外の名前を呼んじゃいけない。その指で俺以外に触れちゃいけない。その姿を俺以外に見せちゃいけない。

君は本当に、悪い子だね。

あと何日…お仕置きが必要かな?」

一瞬だけ、彼女の瞳が揺れた。
壊れてしまいそうな脆さが怖かった。
抱き締めた肩は、思うよりもずっと、小さくて…。

髪にそっと触れると、俺のパーカーの裾を掴んで、ふわりと見上げられた。

「すき…。」

「…っ」

怯える様に彼女から引き離した躰は、条件反射か。
罪の意識に飲み込まれてしまいそうで、そうか…俺は、怖かったんだ。

あの日から、彼女が口にするようになった、愛の言葉。
ソレは誰に向けられたものか。
それとも、自身の身の安全の為。
そんな言葉を俺に投げかけているのか。

これは俺が望んだ世界だ。
なのに、その世界に怯えているのは…俺の方なのか…?



ねぇ、梅雨李。
君は俺を、どうか許さないで。
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