僕の可愛いお姫様
「素敵な名前。」

席についている方の女子が、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
その声が隣の席の俺にだって届いたのが奇跡かと思うくらいには、小さな声だった。

「可愛い名前」、「女みたいな名前」だとからかわれる事は何度もあった。
中性的とは言え、「素敵」だと称される事は初めてだった。

チラリと盗み見た席のネームプレートには「梅雨李」の文字。

つゆ………き…?

初対面の俺に、彼女の名前は難しかった。
その風変わりな名前が、親近感を持たせたと共に、教室に入る前の緊張は、知らぬ間に、違う種類の緊張に変わっていたんだ。
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