ふくらはぎの女(ひと)【完】
その時の私は、
何が何でも母を傷つけてやりたい。
そんな気持ちでいたのかも知れない。
この数日、まともに眠れた夜はなかった。
例えようもなく長くて静かな墨色の闇。
その底にうずくまり、
呼吸をするのさえ恐ろしかった。
どんなに孤独な気持ちになったか、
どんなに無事を祈ったかなんて、
口にできるはずがない。
「死なないよ」
私の言葉が途切れた後、
語尾に音符がつくような、
いつもの母の
跳ねるような口調が聞こえた。