ふくらはぎの女(ひと)【完】
「潤一郎さん、
ぬいぐるみを持って来たの。
そしてそれをお母さんに
手渡そうとしたの。
その瞬間、お腹がざわっとなった。
痛いっていうよりも、熱かった。
『あっ』って言って
お母さん、膝をついて、
両手でお腹を押さえながら
『救急車呼んで!!』って
咄嗟に叫んだわ。
そしたら潤一郎さんは、
慌てて店内に駆け込んで行った。
次に気がついた時はもう、病院よ。
ね、娘子ちゃんがもしも
潤一郎さんだったら、
殺そうとした人間のために
わざわざ救急車なんて呼ぶ?
お母さんなら、
そのまま走って逃げちゃうな。
普通はそうでしょう?」
「単なる小心者なんでしょ。
マヌケ過ぎるよ、人刺しておいて
慌てて救急車呼ぶなんてさ。
だいたいお母さんも、
どうして自分を傷つけた人間を
そんなにも庇おうとするのよ?」
のん気な母の口調と言葉に、
またしても私はいらいらと
怒りが込み上げて来た。