ふくらはぎの女(ひと)【完】
待合室で一人
手持ち無沙汰の私は、
そばにあった妊婦雑誌の
ページを
なんとなくめくりながら、
母の最後の
「ごめんね」の意味を
ぼんやりと考えていた。
母はあの時、
何を想ったのだろう。
苦しい息の下で。
瞬膜のように閉じていく、
白く濁った最後の夜に。
もう語尾に音符のつかない
かすかな吐息のような声で
つぶやいた
「ごめんね」
約束を、
守れなくってごめんね。
帰れなくって、ごめんね。
迷惑をかけて。
心配をかけて。
そばにいられなくなって。
あの時あんな事言って。
あの時
ああ言ってあげられなくて。
ごめんね、一人にしてしまって。
ごめんね。ごめんね。ごめんね。
ごめん・・・・・・・・・・・・・・・・・・