ふくらはぎの女(ひと)【完】
「滝田さん、

滝田娘子さん。

診察室へどうぞ」

ふいに名を呼ばれ、

はっとした。

慌てて雑誌を閉じ、

立ち上がる。

・・・今のは

母の言葉ではない。

完全に、私から母に

言いたかった

言葉ばっかりじゃないか。

そう思うとおかしくて、

ひっそりと笑いが込み上げた。

緊張しているせいか、

私は今とても心細く、

感傷的になっているようだ。

今になっていくら

意味を考えたって、

本当の所は

直接母に聞かない限り、

わかるわけがないのに。


私は気を取り直し、

深呼吸をした。

そして

ポケットの中の

カラフルなふくろう石の

感触を左手で確かめながら、

右手で診察室のドアを開けた。

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