ふくらはぎの女(ひと)【完】
会計を済ませ
病院を出た時、
私は
ほんの数秒間泣いた。
本当は、声を上げ、
道路に寝転び、
手足をばたつかせて
大声で泣きたかった。
しかし私は
嗚咽も漏らさず、
ただ数滴の涙を流して
静かに泣いた。
小さな子供のように
泣く事は、
もう叶わないのだから。
しかし私は邦男の前で
我慢できずに声を上げ、
泣き出してしまった。
まるでたった今初めて
母が亡くなった事実に
気づいたかのように。