AKANE -もう一度、逢いたい-


ミスコンの舞台裏近くまで来たのはいいものの、これからはどうすることも出来ない。

楽屋に向かう勇気もない。


「どうしましょうか。如月さんだけまだ相手が決まっていないみたいで…」


すぐそこで企画委員長と企画委員が話していた。


「このままだったら
棄権にするしかないな」


企画委員長の厳しい言葉が胸に刺さった。


たった一歩が踏み出せない。

助けたいと、力になりたいと思うのに。


あたしはやっぱり無力だ。


「助けたらいいんじゃないか?」


後ろから響いた身に覚えのある声。


あたしは振り向かずに逃げ出そうと一歩を踏み出す。


「待って!」


あたしは彼をおいて逃げ出そうとした。


もう彼とは向き合えない。

お互いに助けてきたけれど、お互いに傷つけてしまったから。


だから逢えないよ。


「ずっと、逢いたかった」


それでも逃げ遅れてしまったあたし。


後ろから力強くギュッと抱きしめられる。

懐かしい抱擁は心が苦しい。


「離して…」

「逢いたかったんだ、茜」


ビクッと体が震えあがる。


この感覚、声色、匂い。全て忘れない。

忘れられない人だから。


「裕人(ヒロト)…」

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