AKANE -もう一度、逢いたい-
それは言葉だけでなく、痛みも全てを含んでいた。
最初は先生や男子の気付かないところで、こっそりとやるのだ。
たとえ気付いていても誰も言わない。
黙ったまま、誰も言おうとしなかった。
茜は心も体も、治すことのできない痛みを抱え込んでいた。
こんな時に裕人くんがいたら。
前の時みたいに怒って茜を守ってくれたら。
それだけで彼女は救われるのに。
何度もそう思わずにはいられなかった。
でも彼は遠征で、もう何週間も学校に来ていない。
久しぶりに裕人くんが学校に来ていても茜は「言わないで」と頑なに言うのだった。
「あんたってサイテー」
「死ねばいいのに」
たとえ、どんなにひどい悪口を言われても言うことも1つ。
「あたしは大丈夫だから」
そのたった一言だけ。
まるで自分に言い聞かせるようだった。
そして裕人くんはサッカーと男友達を優先するようになっていった。
彼女はこの時、家庭の暴力だけでなく、学校でもイジメられていたんだ。
体の傷も心の傷も、深く深くえぐれていく。
それでも毎日学校に来て、今まで通りに過ごす。
支えだったのは心の中にいる裕人くんだけだったのかもしれない。