AKANE -もう一度、逢いたい-


ピリピリした空気の中、蒼次が俺に声を掛けた。


「貴之、大丈夫か」

「あぁ、多分」

「いろんなプレッシャーも
あるだろうけど…」

「分かってる。
この試合を楽しむ」


貴之は怖そうな顔をしていた。

こっちが大丈夫なのか不安にさせられるほどだった。


だから俺、蒼次は話題を変える。


「…まだ来てないみたいだな」

「そうだな」

「本当に来ないつもりなのか」

「ああ、きっと」


貴之の少し悲しそうにしている表情が辛そうに思えた。


俺は何も言うことが出来ない。

一緒に頑張ろうとしか言えない。


何も出来なかった蒼次は観客席に行き、明音ちゃんに頼んだ。


「明音ちゃん!」


肩をすくめて彼女は言う。


「言いたいことは、なんとなく分かるよ。連れてきたらいいんでしょ?」


どうして分かったのか、でも謝ることしかできなかった。


「悪い」

「心配しないで。
だから絶対に勝ってよね」


明音ちゃんは詳しい事情を知らない。

それでもなんとなく気持ちを察してくれる。


そのまま彼女は会場を後にして駆け出して行った。


そしてグラウンドに戻る。

きっと明音ちゃんなら連れて来てくれる。


きっと、絶対に。

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