AKANE -もう一度、逢いたい-


「だから聞いて欲しいんだ」

「…な、何…?」


もう言葉が出そうにない。


息をするのがやっとで、足も震えだしていた。


「放課後に
俺と逢って欲しい」

「…い…いや…だ…」

「頼むよ。今までの
時間を取り戻したいんだ」


裕人は痛切に訴えかける。


本当は「どうせ償いだ」とか、いろいろと言ってやりたかった。


けれど、そんな余裕は今のあたしにはなかった。


息をするのが精一杯で、呼吸を落ち着かせようとすることで頭がいっぱいだったから。


「俺は茜を
守るって決めたんだ」

「…わかっ…た…」

「あと今度の
日曜日に出かけようよ」


あたしは仕方なく声を絞り出す。


「わか…った…」


あと、もう少し。

その気持ちだけでいっぱいいっぱいだ。


自分が何を言っているのか、相手が何を話しているのか。

目の前にいるのは誰か…。


あいまいな感覚が体中をしめつけていた。


そして、あたしは話を早く切り上げて、その場を後にした。


あたしはフラフラの体のまま、誰にも見つからない隅でこっそりと倒れこんだ。


< 161 / 311 >

この作品をシェア

pagetop