AKANE -もう一度、逢いたい-


何か言いたいけれど、言葉にすることが出来ないでいた。


「だって貴之くんは
茜ちゃんを諦めるんだから」


そうだ、それでいい。

それが一番いい。


明音みたいにまっすぐな子なら、安心できる。


いつもみたいに「勝手にすれば」って言えばいい。


でも言葉がつまって、何も言えない。


「あたしね、
貴之くんが好きだから」


彼女はあたしが思っていた以上に本気だった。


あたしはひとりで歩みを進める。


「待ってよ」


明音はそのまま走り寄って来るが、あたしは早歩きをする。


「私は、それでも茜と
友達だと思ってるからね」


初めて彼女はあたしを『茜』と呼び捨てにした。

思わず振り返ってしまった。


「茜。ずっと味方だよ」


彼女は優しく笑う。

『あかね』と口元が動いていた。



明音はこれからの貴之を支えていくのだろう。


複雑な気持ちになったんだ。


彼女は貴之を愛してると言う。

それでも友人でいたいとも言うんだ。


貴之なんて、どうにでもなればいい。

明音と付き合えばそれでいい。


そう思うのに、何かが心の中でつまっているんだ。


< 164 / 311 >

この作品をシェア

pagetop