AKANE -もう一度、逢いたい-
その男の人はあたしに向けて、何かを発していた。
「あ…あ…あ…」
「え?」
「あ…か…あか…ね…」
男の人は何度もその3文字だけを繰り返して言うのだ。
男の人は血の付いた手をゆっくりとあたしの顔に手を伸ばして、頬に触れる。
その時に見た男の人の顔は見覚えがあった。
こんな形で正面から逢うことになるなんて思わなかった。
「お父さん…」
「か…ね…あ…か…ね…」
「お父さん!!」
あたしははっきりと名前を呼ぶ。
お父さんは嬉しそうに笑っていた。
「しっかりしてッ…
死んじゃやだよ…」
「あ…えて……よかっ…た」
「やだ…!!」
でもその言葉も届かずに、お父さんはその場で、娘の膝の上で息を引き取ったんだ。
それからすぐに学校に行かなくなった。
お母さんに許しをもらって、この町にたったひとりで引っ越してきた。
この家から出ていくことは母親も嬉しかったのだろう。
すぐに引っ越しの手はずを整えてくれたから。
泣いたのは父親がいなくなったあとだけ。
大きな声を出して、何日も泣き続けたんだ。